日本の美術に興味をもったきっかけは、出版社で編集者として働いていた頃、京都・奈良の寺院に伝わる国宝の仏像を新たに撮影し、デジタルアーカイブ化するプロジェクトに参加したことでした。その経験を通して、日本美術がもつ造形の美しさや、高度な技術に深く魅了されました。
なかでも、鎌倉時代に運慶が手がけた仏像は、躍動感と緊張感にあふれ、他の仏師の作品とは異なる力強い魅力を感じます。
一方で、仏像だけでなく、堂内を荘厳する仏教工芸にも強く惹かれます。繊細で伸びやかな造形には、空間そのものが大きく広がるような清らかな空気感があり、心を動かされます。
なかでも私が好きなのは「華鬘(けまん)」です。金銅製の透かし彫りや、華やかな彩色を施した木彫の華鬘は、何度見ても感動します。
現在、東京国立博物館では、本館4階で「仏教の花―蓮と宝相華―」が開催されています。
華鬘に描かれる宝相華は、仏を荘厳するために創造された架空の花です。仏の世界を表現するのにふさわしい、華やかで豊麗な美しさを備えています。

特に私のお気に入りは、鍍金を施した銅製の華鬘です。透かし彫りが生み出す軽やかな透け感には、大地や天空へとつながるような広がりを感じます。
今回の展示では、鎌倉時代(13世紀)につくられた「金銅尾長鳥文華鬘」や、室町時代(16世紀)の「木製彩色迦陵頻伽文華鬘」などが展示されていました。

いずれも、宝相華が描かれています。宝相華を実在する花にたとえるなら、牡丹や芙蓉、蓮、椿など大ぶりで豊かな量感をもつ花に類似しており、それらのイメージを重ね合わせて創造されたと考えられています。
仏教工芸のさまざまな作品の中で、宝相華がどこに描かれているのかを探すのも楽しみの一つです。
正倉院宝物には、盛唐期(8世紀前半)に制作された品々が数多く伝えられていますが、その中にも宝相華が描かれた作品があります。また、日本でも奈良時代の螺鈿紫檀五絃琵琶や、平安時代の経箱などに宝相華を見ることができます。
さらに、宝相華とともに表される唐草文にも興味があります。唐草文は、シルクロードを通じて東西交易が盛んだった唐代に、ササン朝ペルシアや東ローマ帝国から伝わった植物文様の影響を受け、さらに西方から伝わったパルメット唐草や葡萄唐草と融合して唐花唐草文様あるいは宝相華唐草文様に発展したと考えられています。
華鬘を間近で鑑賞すると、こうした宝相華や唐草文の魅力を存分に味わうことができます。
東京国立博物館は特別展も素晴らしいですが、本館の展示もさまざまなテーマで充実しています。ぜひ足を運んでみてください。
◎「仏教の花―蓮と宝相華―」
場所;東京国立博物館 本館4階
期間:2026年8/30(日)まで