東京・野沢の龍雲寺で10月21日、21日の二日間、開催された企画展「白隠さんと出会う」展。
2日目は、白隠さんを愛し、禅師の禅画に込めた想いやメッセージを分かりやすく説いてくださる”芳澤勝弘先生(花園大学国際禅学研究所顧問)のトーク講座がありました。テーマは「白隠禅画をよむ」。
臨済中興の祖として、江戸中期に活躍した白隠慧鶴(1685〜1768)の描いた禅画に、どのような教えが示され、その教えをどのように文字や絵で表現したか、を具体的な作例を提示して、解説してくださいました。
「禅画」とは、禅林で書かれたもの、という意味で捉えられる場合もありますが、芳澤先生は、「禅画=禅的メッセージが盛られているもの」と定義。白隠の弟子たちも禅画を多く描いていますが、段々と禅のメッセージが減っていているように感じる、とのこと。
白隠さんの禅画は、1万以上あると言われ、その数の多さは圧倒的ですが、それは、白隠禅師の教えを多くの人に伝えたいという強い想いの現れといえます。著書も多く、しかも、漢文だけでなく、仮名交じり文で書かれたものもあります。ここからも、漢文の受容者(僧侶や高い身分の人たち)だけでなく、仮名交じり文の受容者である一般の人々にも、教えを伝えたい、という想いが汲み取れます。
漫画のような白隠さんの禅画には、いくつかのルールがあります。登場人物で梅鉢文が描かれ、寿(いのちながし)の文字が入った着物を来た人、賛のうち、特に小さい文字で描かれた文章など、それぞれに役割があります。
絵は、詳しく観察すれば、何が描かれているかわかりますが、賛は、漢文やくずし文字で文章が描かれており、特に、くずし文字は現代の私たちには馴染みがなく、しかも、個人によりクセがありますので、つい、読み下すのを避けてしまいがちです。しかし、禅画は文字を読んでこそ、絵の意味が分かり、そこから、どのような教えが説かれているのかを初めてしることができます。
一気呵成に、自力で白隠さんの深淵な教えの世界を理解するのは難しいですが、白隠さんの作品それぞれにわかりやすい解説をしてくださっている芳澤先生の著書などを拝見すると、禅画の面白さが広がり、ますます興味も湧いてきます。
東京国立博物館の「禅 心をかたちに」展では、ポスターに白隠さんの達磨像(大分・萬壽寺蔵)、通称「朱達磨」が採用されていますが、禅画といえば、これまで雪舟を頂点とする評価のヒエラルキーがあり、白隠さんの作品が使われるのは画期的なことで、このように高い評価を得るようになったのは近年のことだそうです。
今年は、伊藤若冲さんの生誕300年記念の展覧会が全国で開催され、大反響を得ていますように、江戸時代の書画が再評価されているのは、嬉しい限りです。
これを機に、より多くの方に、江戸絵画の面白さを知っていただけると良いですね。
芳澤先生の著書で、手軽に購入でき、白隠ワールドの楽しさに触れることのできる本は次があります。
・『白隠 禅画の世界』 (角川ソフィア文庫)
・『白隠禅師の不思議な世界)』 (ウェッジ選書)
機会があれば、是非、ご一読いただければ。