奈良国立博物館で開催の「空海 密教のルーツとマンダラ世界」を拝見しました
空海(774ー835年)といえば、延暦23年(804)に遣唐使の一員として入唐して、恵果から体系的な密教を伝授され、日本に戻り、密教による人々の救済と護国を目指す密教と護国脩法を提唱した僧侶。
この展覧会では、大日如来を中心とする、密教の教えを仏像で表現した「五智如来像」(平安時代 9世紀/京都・安祥寺)や、密教宝具、空海自身が制作い関わり、現存唯一の両界曼荼羅「高雄曼荼羅」(平安時代 9世紀/京都・神護寺)など、密教の教える世界観がさまざまな手段(ツール)で表現されていた様子が伺えます。
「五智如来像」は、所蔵の安祥寺では一列に配置されているようですが、展覧会では、大日如来を中心に、東西南北の方向に1体づつ配され、より立体的な空間演出になっています。
仏像や仏画では、仏の後ろに光背があり、光が放射線状に発している様子が表現されているので、仏様の光=観る者を包み込む光、というイメージが強いですが、ここにある大日如来からは、頭部からまっすぐ上に、大きな柱のような太く、力強いパワーが出ているような印象を受けました。
「金剛密教法具」(中国 唐 9世紀/京都・教王護国寺)は、中国密教の大成者・不空から、恵果、空海へと伝えられ、空海が唐から持ち帰ったと考えられる法具で、その造形美や時代を経て放つ鈍い金色の美しさに見とれてしまいます。
一方、「金剛羯磨」(中国 唐 9世紀または平安時代 9〜11世紀)は、禍々しいオーラを発しているのが感じられ、近づいてよく観察したい気持ちと近づくのが怖いという、揺れる気持ちで展示に近づいたり・・・。
仏法だけでなく、語学や建築などにも通じ、多方面で天才ぶりを発揮した空海の直筆の資料も多く展示されていました。
空海の文字は、とてものびやかでとても心地よいリズムがあるように感じ、いつまでも観ていたいと思う魅力があります。
入唐の後、帰国した空海は、護国寺を拠点に密教の流布を行い、多くの僧侶たちが密教を学ぶようになります。
そして、朝廷の信頼を得て、密教による護国の役割も期待され、官寺だった平安京の東寺を任されると、東寺を真言密教の根本道場と位置づけ、講堂や五重塔を建造します。
東寺の講堂には、密教の教えを視覚的に表した、空海プロデュースの立体曼荼羅があります。
如来、菩薩、明王、天部の21像が配された講堂は、いつ訪れても緊張感と迫力があり、各仏像の造形の素晴らしさに魅了されます。
今回の奈良博では、東寺所蔵で、伝真言院曼荼羅とされる「両界曼荼羅」も出品されています。朱色が特徴的な、明るく彩度の高い曼荼羅で、他の曼荼羅のような威圧感の無い感じにホッとします。
全体的に力強く、迫力のある展示が多かったので、帰った後は、そのエネルギーに当てられたのか、どどっと疲れが出たのですが、見ごたえがあり、充実の内容でした。
ちなみに、図録は売り切れ状態で、予約注文でした。
◎空海 密教のルーツとマンダラ世界
会場:奈良国立博物館
期間:2024年6月9日(日)まで
https://www.narahaku.go.jp/exhibition/special/202404_kukai/