今年の3月30日に開館した鳥取県立美術館は、県中部に位置する倉吉市にあります。
飛鳥時代(7世紀中頃)に創建された山陰地方最古の古代寺院・久米寺の「大御堂廃寺跡」に隣接するこの地には、爽やかな風がスッと通り、奈良の同時代寺院の立地とよく似た雰囲気があります。

建材には県内生産の木材を一部使い、館内は明るく開放的。建築は前期、中期、後期に展示替えがあり、前期(4月20日まで)には、若冲さんの「象と鯨図屏風」が展示されていました。

私が訪れた時は、若冲さんと同時代に京で活躍した曾我蕭白(1730〜1781年)の「林和靖図屏風」が展示されていました。



林和靖は、鶴を養い梅を植えて愛し、生涯独身で過ごしたという北宋の詩人ですが、蕭白の手にかかると、かなりクセ強な人物に描かれ、そこが作品の魅力とも言えます。
若冲さんが50代前半に手掛けた拓版画の画巻「乘興舟」と、円山応挙の「淀川両岸図巻」が、ケースは別ですが、横並びに展示されていました。

「乘興舟」は、明和4年(1767年)の春、若冲さんが交友のあった禅僧・梅荘顕常(大典)と淀川を船で下り、伏見から大阪天満橋までの川下りの風景を若冲さんが描き、大典が短辞を添えた、二人のコラボ作品。

二人が淀川の舟下りを楽しんだ当時、伏見から大阪へ下る舟は昼便と夜便の二種類で、約6時間の航程だったそうです。二人が伏見を経ったのは、午前に出る便で、快晴に恵まれ、陽を浴びた河面、遠くの山々、近くの川岸の様子が白、黒、グレーのグラデーションを効果的に用いて表現されています。

デザイン性が高く、現代のわたしたちから見てもモダンな仕上がりは、さすが若冲さんです。
旅程のあちこちに挿入された大典禅師の短辞と若冲さんのセンスが呼応する、叙情的な素敵な作品です。

一方の応挙の「淀川両岸図巻」は、若冲さんの「乗興舟」より2年ほど先に、応挙が数え33歳の時に描いたもので、乗興舟と同じく、京の伏見から大阪の天満橋までの淀川の風景を、舟の中から見る風景そのままに描いています。

応挙の目に映る、両岸の風景を写実的に描いたこの作品からは、当時の淀川の様子がよく分かります。
一方の若冲さんの乗興舟が、目に映る航程の風景を取捨選択し、白、黒、グレーのグラデーションを効果的に用いて、俗世の風景をまるで仙境のような幻想的な異世界に仕上げています。
ほぼ同時期に制作された淀川両岸の風景を通して、、二人の作画に求めるものの違いがよく表れていて、興味深いです。
実は、応挙の淀川図巻は、資料ではよく見ていたのですが、実物をじっくり拝見したのは初めてで、両岸の山並や樹木が大変丁寧に描かれ、淀川の流れや川面の輝きが上手く表現されていて、いつまでも見飽きない美しさがありました。
鳥取因幡藩ゆかりの近世絵画を集めた展示室では、土方稲嶺(1741-1807)、片山楊谷(1760〜1801)、島田元旦(1776〜1840 )、沖一峨(1796〜1861)、黒田稲皐(1787〜1846)など、藩の御用絵師の作品が一覧できます。

個人的には、鳥取出身の作家の辻晋堂(1910〜1981年)の木彫の人物像「詩人(大伴家持試作)」にとても惹かれました。

作品名に大伴家持とあることから、三十六歌仙の一人として知られ、鳥取因幡国の国守を務めていた大伴家持の像、ということでしょうが・・・。裸像とは、大胆!

大伴家持が鷹狩りを好み、鷹を詠んだ歌が知られることを踏まえて、鷹を腕に乗せる大伴家持の姿は、スタイルよく、髪型もキマっていて、現代風・大伴家持という感じが面白いです。
3階の広いベランダにある中ハシ克シゲ氏のブロンズ彫像「抱きつき犬」と「お出掛け犬」も楽しい作品。

「作者が目を閉じて触覚だけで作った作品」と解説にあり、見た目は犬というより、オットセイなどの別の生き物のように見えますが、目を閉じてこれらに触れたり、撫でたりすると、あら不思議。犬を撫でている感覚があります。
触れることを前提とした作品ですので、やはり、撫でて挙げてこそ楽しめる作品ですね。私も思わず、ナデナデしてしまいました。

展示会場外の廊下エリアには、鳥取が生んだ偉大な漫画家・水木しげる先生の「ゲゲゲの鬼太郎」「河童の三平」「悪魔くん」のキャラクターが描かれた晩年の作品が展示されています。

鳥取県は、水木しげる先生はもとより、「名探偵コナン」の作者の青山剛昌先生や「神々の山嶺」や「孤独のグルメ」の作画で有名な谷口シロー先生などがいらっしゃいます。彼らを紹介したコーナーが1階にあります。

鳥取県美が3億円で購入し、開館前から何かと話題となったウォーホルの「ブリロ・ボックス」をはじめ、近世絵画から現代まで、国内外を問わず、幅広いジャンルの作品が揃えてあり、盛りだくさんな展示でした。



館内のあちこちに隠れるように配されている須田氏の作品を探すのも楽しい
◎アート・オブ・ザ・リアル 時代を超える美術 ー若冲からウォーホル、リヒターへ」展
会場;鳥取県立美術館期間:〜6月15日(日)
