展覧会

藤戸竹喜の木彫り熊は、自然へのリスペクトに溢れていました

東京ステーションギャラリーで開催中の「木彫り熊の申し子 藤戸竹喜 アイヌであればこそ」展を拝見しました。

アイヌの両親の元で生まれ、幼くして母を失い、木彫り熊の職人だった父の元で修行を行い、若くして才能を開花した木彫家・藤戸竹喜の初期から最晩年に至る代表作80点余りが出品されています。

クルミやカシ、シイなどの木を用い、デザイン無しに彫りあげられた熊や狼、鹿など大自然を生きる動物たちは、いずれも生命力に満ち、その精緻な毛彫の表現は生き物の呼吸に連動して波打っているようです。

飼い犬猫のツヤツヤとした柔らかな毛とは違い、野生動物特有の短く堅く湿り気を含んだ毛の表現に一瞬で魅了され、そこに作者の自然と野生動物へのリスペクトを感じます。

チラシに採用された熊像の「全身を耳にして」は、ある音に気づいた熊がその音の方向を意識した一瞬の表情が繊細に、140センチ以上の堂々たる立ち姿で表現されていて、とても魅力あふれる作品です。

2018年に84歳で亡くなるその年に制作された「遠吠えする狼」は、狼の毛色の灰色に似た「埋もれ木」を用いた狼像で、細めた目や少し痩せた体躯、腹部のたるみなどから、老狼であることが分かります。作者自身の姿を重ねたのでしょうか。

等身大のアイヌの人物像などは、その場に本人がいるかのようにリアルですが、人というよりも“森の妖精”のような軽やかで静かな雰囲気があります。

垂直に伸びる数本の昆布を背景に垂直に潜るラッコや、親子や雌雄でじゃれる熊など、愛らしい作品もあり、見応えがあります。

本当に良い作品は、いつまでも観ていても飽きませんね。

◎「木彫り熊の申し子 藤戸竹喜 アイヌであればこそ」
東京ステーションギャラリー

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