アーティゾン美術館で開催の「ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎」展を観ました。
明治15年、ともに福岡県久留米市に生まれ、同じ高等小学校に通い、画家・森三美の主催する洋画塾で学び、画家を目指した二人の初期から晩年までの作品約250点が並びます。
青木繁といえば、10人の裸体の男性が、漁で撮った3匹のサメを背負って浜辺を進む「海の幸」が有名ですね。
二列に並ぶ男性たちの中ほどに、おしろいを塗っているように白い横顔の人物がいますが、この人は、志村けんのバカ殿に似ています。
さらに右奥の白い顔の人物は、くりっとした大きな瞳をこちらに向けています。フェルメールの「真珠の首飾りの少女」の少女に雰囲気が近い気がします。
教科書でかつて知ったこの有名な絵をまじまじと観ていると、この絵のもつ不思議な雰囲気が気になりました。
進行する人物像にリアリティが感じられず、ギリシャの神殿の彫刻のような、どこか遠くの、そして、はるか昔の時代の人のように見えます。
作品解説によると、青木繁はこの作品を、坂本繁二郎らとともに千葉県館山の布良海岸に写生旅行に行き、太平洋の黒磯に向き合う漁村に1ヶ月半ほど滞在した期間に描いたそうで、大量陸揚げの様子を目の当たりにした坂本繁二郎が語った目撃談を基に、青木繁が想像を膨らませて描いたそうです。
想像の産物であれば、この絵の持つファンタジーっぽい雰囲気も納得いきます。
作品の大きさは、横182センチ、高さ70センチと、思っていたよりも小ぶりで、額縁が凝っています。
魚の鱗の模様が彫られ、四方の角には、二匹の魚が交差するデザイン!
これは作者自身、あるいは後の所有者の意向でしょうか。
展示会場を進んでいきますと、裸体や薄い衣を着た11人の若い女性が室内のソファーでくつろぐ作品に目が行きます。
タイトルは「天平時代」。
人物の女性たちがソファやイスに腰掛けてくつろいでいます。
右奥でこちらに視線を向ける女性が、「海の幸」に描かれた、こちらを見る若い男性と、表情がよく似ています。
明るいオレンジ色の線描を重ねたり、どこか幻想的な雰囲気な点も似ています。
これは「海の幸」の女性版でしょうか?
一方の坂本繁二郎の作品は、透明感があって、カンヴァスに油彩で描かれていても、どこか、瑞々しい印象を受けます。
馬がとても愛らしく、メルヘンチックに描かれていて、童話の中に紛れ込んだようです。
青木、坂本両人の作品について詳しくありませんので、知識や先入観なしに作品を鑑賞して、あれこれと推測しながら観覧するのは、よく知る作品を観るのとはまた違った楽しみがありますね。
ちなみに、二人の画塾の師だった森三美の作品もいくつかあり、「刈入れ」は、幅50 センチ、高さ30センチの小さな作品ですが、ミレーのような、大地と空の広がりを感じる、とても素敵な絵でした。
◎「生誕140年 ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎」
アーティゾン美術館
期間:10月16日まで