明けまして、おめでとうございます。
今年は丑年。若冲さんの「円窓牛図」を掛けてみました。
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若冲さんには大変珍しく、牛を描いた作品です。
角を天に、耳を横に立てた牛が、円窓に向かい、前脚を曲げて座しています。
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牛は濃墨のみで胴部や脚部、頭部を力強く、一方の円窓は淡墨で軽快に描き、墨の濃淡、筆致の強弱、円窓と牛の配置の高低などの対比が見事で、シンプルな構図ながらも、インパクトある作品に仕上げています。
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賛は、若冲さんと交流があり、若冲作品に最も多くの賛を記した、黄檗僧の無染浄善(1693〜1764)。
鎌倉・南北朝時代の臨済僧・東海竺源(1270〜1344)の頌からの出典で、一部を無染浄善がアレンジしています。
「丹崖七十一翁題」とあることから、無染浄善が七十一歳の1763年(宝暦13年)、若冲さん48歳の作となります。
さて、この作品の牛には、元ネタがあります。
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大岡春卜(1680〜1763年)の絵手本『画巧潜覧』(1740年刊)に、この牛と同じようなポーズをとった牛の絵があります。
春卜は、江戸中期に大阪で活躍した狩野派の町絵師で、若冲が春教と号していた初期の頃に絵を教えたとも言われています。
春卜は、『画巧潜覧』全6巻のほか、『和漢名筆 画本手鑑』全6巻などの絵手本を刊行しており、若冲さんの牛図も、この春卜の絵手本を参考にしたものと思われます。
このほか、円窓と牛との組み合わせは、江戸中期の禅僧・白隠慧鶴(1686〜1769)も描いています。
白隠の『牛過窓櫺』は、円窓に向かって、こちらに背中を向けた牛が中座しており、若冲さんの牛図と構図が全く同じです。
しかし、春卜や白隠の牛図とポーズや構図が同じであっても、そこは、さすが若冲さん。
牛のどっしりとした重量感や生き生きとした生命感の表現などは、アイディアソースは別に存在していたとしても、若冲さんらしさ全開のキュートな牛図になっています。
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ピンと横にはねる耳や、まるっとした背とお尻がなんとも言えずかわいらしく、お気に入りの一枚です。