江戸絵画

ルオーと白隠

『ジョルジュ・ルオー展』図録より 「キリスト(とパリサイ人)」

『白隠展』図録より 「蓮池観音」部分

ジョルジュ・ルオー展が昨年末、出光美術館で開催されました(期間〜12月20日)。ルオー(1871—1958)は、黒く太い線で力強く描いた道化師や娼婦、キリストやキリストの受難をテーマにした作品で有名な、20世紀を代表するフランスの画家です。

私の初ルオー体験も、キリストの受難をテーマにした連作油彩画『受難』のキリスト像ですが、第一印象は、「なんだか、マンガみたい」でした。敬虔なカトリック信者であったルオーの信仰の現れであり、画家としてのライフワークでもあった“キリスト”。

ルオーのキリストには、彼の思想と宗教哲学が表現されているのでしょうが、太い黒い線で輪郭を描き、幾層もの絵の具を重ねることで、鮮やかな透明感を持つ作品。一コマで表現された、ストーリー性のある作品は、幾層もの絵の具を重ねることで、鮮やかな透明感を持つことも幸いし、そこにジメジメした暗さはなく、どちらからというとポップな雰囲気があるように思われました。

そして、昨年末に、この展覧会で改めてルオー作品を見て感じたのは、「ルオーの描くキリストは、白隠禅師の描く仏(菩薩)に似ている!」ということでした。

ユダの裏切り、捕縛、拷問、裁判、ゴルタゴの道と磔刑、墓からの復活・・。これらのキリストが最後の日を迎えるまでの受難の数々を描いた連作『受難』のキリストの表情は、苦悩ではなく、穏やかで優しく、すべてを許し包み込む寛大さが表現されているように思われます。

日本でいうと“仏様のような慈悲深いお顔”でしょうか。だから、江戸時代前期の禅僧・白隠慧覚(1686-1769)が墨絵で描く菩薩や釈迦によく似ていると感じたのでしょう。

白隠展』図録より 「出山釈迦」

出光美術館をつくった出光興産の創業者・出光佐三氏は、ルオーの『受難』を見た時、「仙崖の墨絵のようだ」「浮世絵のようだ」と語ったそうです。

仙崖義梵(1750—1837)も白隠同様、江戸時代(後期)の禅僧で、仏の教えを民衆にわかりやすく伝えるために、仏や人物などのたくさんの墨絵を描きました。

仙崖『文殊菩薩画賛』(古美術 景和)

出光氏は仙崖コレクターとしても有名で、出光美術館には多くの仙崖作品が所蔵されていますので、カトリック教徒のルオーと禅僧の仙崖という、宗教への帰依の深い二人が描く、それぞれが信仰する“神サマ、仏サマ”に、共通する表現を読み取ったのかもしれません。

さて、さて。キリスト教について知らなくても、ルオーが好きな日本人。その人気の秘訣は日本人に馴染み深い「漫画」や「仏の姿」をそこに思わせるからかもしれませんね。

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