桜の花びら舞うなか、文を読む権八の横顔が魅力的

 

 

芝居絵を得意とする鳥居忠雅が描いた、肉筆の浮世絵。
「権八」とは、江戸前期に実在した武士・平井権八で、講談や浄瑠璃、歌舞伎などでは、“白井権八”として登場します。

権八は元は因幡国(鳥取)藩士で、18歳の時に父親の同僚を斬殺して江戸へ退去。
新吉原の遊女・小紫と昵懇となるも、やがて困窮し、辻斬りを犯して人を殺し、金品を奪ったとされます。
普化宗・東昌寺に匿われ、尺八を修めて虚無僧となり、虚無僧姿で郷里・鳥取を訪れますが、父母が死去していたことから、自首。
25歳の延宝7年(1679)、品川・鈴ヶ森刑場で刑死。
小紫は権八の刑死の報を受け、東昌寺の墓前で自害したとされます。

権八のドラマチックな人生が、芝居の好題となったのでしょう。
桜の花びらが散るなか、権八が文を読む様子を描いたこの作品は、歌舞伎のワンシーンのように、物語性に富み、目前で舞台を見ているような臨場感があります。

細身で長身、切れ長で美しい目や、キュッと結んだ口もとなど、“イケメン権八”の姿や表情には、見どころがたくさんあります。

背景のハラハラと散る薄ピンク色の桜も、この物語の登場人物のはかない人生を暗示しているかのようです。

 

作家名 鳥居忠雅
作品名 権八
時代 大正〜昭和
絹本著色
印章 「鳥居」
備考 合箱
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◎鳥居忠雅
明治37年(1904)〜昭和45年(1970)。
浮世絵師、日本画家。四代目、鳥居清忠の門人。
明治37年に東京・本郷の薬局の長男として生まれる。
大正10年(1921)より四代目・鳥居清忠に師事、鳥居派の芝居絵を学ぶ。
昭和18年(1943)より歌舞伎座などの看板絵や番付を描き、第二次世界大戦後は、主に歌舞伎座、国立劇場などの看板板などで活躍。
昭和24年(1949)に鳥居家の姓を許される。
晩年はフランス・パリでの展覧会のための作品制作や著作を計画していたが、果たせなかった。
代表作に、木版画「隈取十八番 市川流一本隈 和藤内の図」(1941)や木版画「続隈取一八番 市川流火焔隈」(1943/東京国立近代美術館蔵)、木版画集『歌舞伎十八番』全三巻(1952)、木版画「歌舞伎姿暦」などがある。