多くの展覧会に出品された若冲の初期水墨画

 

一羽の雄鶏がキリッとした表情で立っています。

テーマは、若冲がライフワークとした鶏。

竹の元に雄鶏が横を向き、顔を少し上に向け、口を開けています。
夜明け前、時を告げているのでしょうか。

本紙サイズが通常のお軸よりも大きく、元は押絵貼屏風として描かれたものです。
宝暦10年(1760)に描かれた六曲一双の「花鳥蔬菜図押絵貼屏風」に同様の雄鶏が描かれ、白文方印の「藤汝鈞印」がこの時期に限定的に使用されていたもので、花鳥蔬菜図押絵貼屏風と同じであることから、この「竹に雄鶏図」も、もとは屏風を構成する12枚のうちの1枚であることが想像されます。

宝暦10年といえば、若冲さん45歳。40歳で画家デビューして5年が経った頃なので、亡くなる85歳まで描き続けた若冲さんにとっては初期の作品に当たります。

雄鶏の表現は、後の作品に見られる、どこか剽軽でユーモアあふれるそれとは違い、緊張感があり、お得意の水墨画技法である“筋目描き”は使われていません。この頃は、まだ筋目描きの習得はされておらず、基本的な水墨画の技法を用いて、忠実に雄鶏を描いているようです。

雄鶏の側のは、先がくるんと曲がったり、陽の光が当たりキラキラと光る葉の表現などではなく、まっすぐ、実直に描かれています。
竹の表現は、中国画の水墨画のお手本に準じた、優等生な描き方。

しかし、若冲らしさも、ここかしこに見られ、羽の質感や色などの違いを、墨の濃淡や筆致を変えて表現しています。

また、密度の高い体部に反し、鶏冠はシンプルな線でシルエットを描き、尾羽根はたっぷりの濃墨でぬりつぶすように描くなど、「白と黒」、「線と面」の対比が特徴的です。

開いた口からチラと見える舌は、スッーと迷いなく、まっすぐで美しい線で描かれています。
「神は細部に宿る」の言葉どおり、舌の先まで手を抜かず、雄鶏の持つ“なまなましい生命感”をここに感じることができます。

若冲さんは、鶏や叭々鳥、鶴など、口を開いた鳥をしばし描いていますが、そのような作品に出会った時は、ぜひ、“舌”をご覧になってみてください。

“ニセモノ”は、舌の線がダレていたり、曖昧だったり、弱々しかったりしています。
上手に似せようと工夫をこらして描かれたニセモノも、舌の先までは意識が至らないようで、舌の表現を見れば、その差は一目瞭然。

若冲さんの描く水墨画には、何気なく描かれた土坡や草などにも、生気が宿っています。

背景を多くの要素で埋めるのではなく、最小限のアイテムで主題を描くからこそ、描かれた構成要素の一つ一つに手抜かりはなく、1本の草にさえ、多くの見どころがあります。

さて、この「竹に雄鶏図」は、これまでにいくつかの展覧会に出品された作品ですので、会場あるいは図録でご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

◎「竹に雄鶏図」展覧会 出品履歴
・「生誕三百年 同い年の天才絵師 若冲と蕪村」展/サントリー美術館・MIHO MUSEUM(2015年)
・生誕300年 若冲の京都 KYOTOの若冲」展/京都市美術館(現・京都市京セラ美術館)(2016年)
・「東日本大震災復興祈念 伊藤若冲」展/福島県立美術館(2019年)

「竹に雄鶏図」には、後の若冲作品の独創性の萌芽がチラチラと見え、その軌跡を分析するのも楽しいですね。

作家名 伊藤若冲
作品名 竹に雄鶏図
時代 宝暦10年(1760)頃/江戸時代
紙本墨書
本紙寸法 119.2 ✕46.1 cm
総丈 194.6 ✕ 64.7 cm
印章 「藤汝鈞印」(白文方印)、「若冲居士」(朱文円印)
落款
付属 合箱
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