雑誌『Pen』の「運慶と快慶。」特集号が書籍になりこの度、PenBOOKSシリーズとして発売されました。
私も、運慶について、また仏像についてのページを執筆させていただきました。
運慶の代表作といえば、現存する最も若い時期につくった奈良・円成寺の「大日如来坐像」や、和歌山・金剛峯寺の「八大童子像」など、鎌倉時代にふさわしい、力強く、躍動感あふれる仏像が知られています。
一方の快慶も、修学旅行のメッカ・奈良は東大寺南大門の「金剛力士像」を運慶とともに造り、その名を広く知られる仏師。
運慶、快慶ともに”慶”の字が付くとおり、「慶派」と称される、運慶の父・康慶が興した一門に属していた二人ですが、作風はもとより、その境遇や生き方、造像の目指すところは全く違っています。
弟子筋ながらも奈良仏師を継ぎ、その高い先見性とマネージメント力で一門を盛り上げた仏師の棟梁・康慶の嫡男として生まれた運慶は若い頃から才能に恵まれた天才。恵まれた環境で英才教育を受けながら、活躍の場を保証された運慶は写実的でのびやかな傑作をつくります。
そして、父の跡を継ぎ、棟梁となった後も、時の権力者との関係を構築しながら、大規模プロジェクトにも参加し、成功を収めます。
仏師として、また一門を率いる棟梁としても、その能力を遺憾なく発揮した運慶は、造仏への情熱と新たな表現への飽くなき追求は最期まで衰えませんでした。
一方の快慶は、慶派の一仏師でしたが、腕の確かさと、阿弥陀信仰の師と仰いだ僧・重源の引き立てによって、東大寺復興プロジェクトで重用されたり、兵庫・極楽寺の阿弥陀三尊像を手掛けるなど、活躍の場を広げます。
また、快慶が生涯を通じて造り続けた90センチ前後の阿弥陀如来立像、いわゆる「三尺阿弥陀」は、端正で上品な表現が特徴で、ここに、快慶の阿弥陀仏への深い信仰と敬虔な想いが見て取れます。
棟梁として一門を率いて参加し、常に時代の風を読みながら、新たな表現を追求した運慶と、阿弥陀信仰が創造のモチベーションを支えた快慶。
同時代を生きた二人の仏師の人生を比較しながら読むのがおすすめです。
◎PenBOOKS
「運慶と快慶。」
2021年7月発売/CCCメディアハウス
◎『Pen』運慶と快慶。特集号
(2017年10/1号)/CCCメディアハウス