たっぷりとした墨で、大変力強く迫力ある筆致でかかれた書です。
通常、禅僧の書といえば、一筆で一気呵成に書くのですが、白隠禅師の書は、「絵」を描くように、文字を書いた後に、所々に墨で重ね塗りし、書に複雑な表情を付与しています。
「延命十句観音経」を勧め、広めた白隠禅師。
「延命十句観音経」とは、
「観世音、南無仏、与仏有因、与仏有縁、仏法僧縁、常楽我浄、朝念観世音、暮念観世音、念々従心起、念々不離心』というごく短いお経です。
その大意は「観音菩薩に帰依したてまつります。仏に帰依したてまつります。我らは仏と同じ因と縁をもっております。それは仏・法・僧の三宝とひとつにつながっている世界です。それは常・楽・我・浄の理想世界です。朝に観世音菩薩を念じ、夕べに観世音菩薩を念じます。その一念一念はすべて偉大なる一心から起るのであり、これを離れては何ひとつありません」となります。
本紙の中央に、濃墨で大きく書かれた「常念」の文字の持つ、たおやかで慈愛に満ちた姿と、その文字に沿うように薄墨で書かれた「観世音菩薩」の対比。
実は、「常念」が観世音菩薩で、「観世音菩薩」が菩薩に寄り添う“衆生”を表しているのかもしれません。
白隠が書き与えた「常念 観世音菩薩」は、「延命十句観音経」信仰のために掛けられ、実用品として使用されていたため、消耗や経年劣化が激しいものが大半です。
一方、本作品は状態が大変良く、大切に使用され後世に残されたことが伺えます。
作家名 | 白隠慧鶴 |
作品名 | 常念 観世音菩薩 |
時代 | 江戸時代(18世紀) |
材 | 紙本墨書 |
本紙寸法 | 95.6 ✕28.4 cm |
総丈 | 170.5 ✕ 38.4 cm |
印章 | 「顧鑑咦」(関防印)、「白㥯」、「慧鶴」(朱文方印) |
落款 | |
付属 | 合箱 |
価格 | 売約済 |