本日、NHKスペシャルで「若冲 天才絵師の謎に迫る」が放送されました。再放送はNHK総合で27日0時10分。

特定の画壇に属さず、好きな絵を好きなだけ描き、85年の生涯を画業に生きた若冲。オリジナリティ溢れる技法や手法で数多の作品を創造し、現代の私たちを驚かせ、楽しませてくれます。生誕300年を記念して、このNHKスペシャルでは、若冲さんの作品に込められた想いを最新の技術で解き明かします。

やはり注目は、83年ぶりに発見された謎の大作「孔雀鳳凰図」でしょう。生誕300年にタイミングを合わせたように、昨年発見され、22日からの東京都美術館の「生誕300年 若冲展」に初出品された「孔雀」と「鳳凰」の双幅です。

東京文化財研究所・城野誠治さんの2億画素の超高精細カメラによる撮影によって、「孔雀鳳凰図」は、輪郭線を描くことなく形作り、0.2ミリくらいの細い線で孔雀の羽根を表現し、線の間隔も殆ど変わらず、一箇所のミスも、書き直しも見当たらない、完璧に描写されていることが説明されました。

もう一人、同じく東京文化財研究所の早川泰弘さんによる、宮内庁と共同で平成11年から16年に行った若冲の畢生の大作『動植綵絵』30幅の絵具材料分析で発見された、若冲の色彩への強いこだわりと細かな描写についても紹介されました。

若冲が使用した絵具の種類は、当時の他の画家が使用したものと大差はなく、限られた色数でしたが、裏から彩色を施す「裏彩色」の技法を用いたり、表から、何層も絵具を塗り重ね、奥行きや立体感のある色彩のバリエーションを造り出しています。

例えば、『南天雄鶏図』では、南天の実に使用した色は赤一色ですが、何百とある実は、一つひとつ、色を塗り重ね、その重ね方の違いで、同じ赤でも、色の深みや明るさの違いを出しています

また、『秋塘群雀図』では、絵具分析では、ほんの僅かの「鉛」が検出されたのですが、これは「鉛丹」というオレンジ色の絵具を、雀の胸の部分に、見た目には分からないくらい小さな絵絹の絹目の間に、少しだけ塗り、雀の胸の微妙な色を表現していました。その粒の大きさはなんと0.1ミリ以下。もちろん、人間の目で認識できないレベルの色彩を施していたのです。

『紅葉小禽図』では、570枚あまりの紅葉を、表からの彩色と裏彩色を組み合わせて、葉の一枚一枚を違う色彩で表現していました。『群魚図』では、画面左下の魚(ルリハタ)の青色に、プロイセンで造られた最初の人工顔料・プルシアンブルーが使用されていました。江戸の中期、長崎の出島に1キロしか輸入されなかったこの稀少な人工顔料を、日本で最初に使用した画家が若冲でした。

宮内庁と東京文化財研究所が共同で行った『動植綵絵』30幅の詳しい調査報告は、次の書籍で読むことができます。

・『動植綵絵 若冲、描写の妙技』(編集:宮内庁三の丸尚蔵館/発行:(財)菊葉文化協会
・『伊藤若冲 動植綵絵 全三十幅』(編集:宮内庁三の丸尚蔵館ほか/発行:小学館

さて。これらの若冲の色彩に対する強いこだわりが物語るもの。

それは、すべての生き物が持つ生命感や瑞々しい美しさを表現するために、画業に精進し、創意工夫を凝らすことで、多彩な色彩表現を可能にした、若冲の生命への尊厳であり、敬虔な仏教徒でもあった若冲が生涯通して描き続けたかったのは、あらゆる生き物の“生命”そのものだったのではないでしょうか。

今回の若冲特集番組に、古美術景和も取材協力させていただき、若冲さんの水墨画「狗子図」が番組内で紹介されました。

 

◎NHKスペシャル「若冲 天才絵師の謎に迫る」
https://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20160424
放送日:2016年4月24日
放送時間:21時〜21時49分