作品

伊藤若冲「双狗子図」

DATA

作家名 伊藤若冲
作品名 双狗子図
時代 江戸時代(18世紀)
紙本墨画
本紙寸法 99.5 x 28.5 cm
総丈 163.0 x 41.0 cm
印章 「藤汝鈞印」(白文方印)、 「若冲居士」(朱文円印)
尚能借睫毫 制名雙狗子
得非風土殊 易狎還難使
太乙離題
展覧会 出品履歴 ・生誕300年 若冲の京都 KYOTOの若冲(京都市美術館)/2016年10月~12月
・江戸絵画名品展(ロシア モスクワ/国立プーシキン美術館)/2018年9月~10月

 

解説

白と黒、静と動、前と後ろなど、対比の妙が楽しい

白色と黒色の二匹の子犬が、一部重なるように密着して描かれた作品。
白い子犬は右上を向き、身体をこちらに向けています。丸いボールのような耳に黒い首輪をして、細い線で毛並みが表現された、ふわふわの小さなしっぽが可愛く描かれています。

一方の黒い子犬は、向こうを向き、後ろ姿を見せています。一見、「この黒い塊は何?」と思われがちですが、白い首輪と、頭の横についた丸い耳のシルエット、足袋を履いたような白い右前脚から、子犬の後ろ姿であることが分かります。

若冲は、例えば水墨画の傑作『象と鯨図屏風』(MIHO MUSEUM)の象と鯨のように、白と黒を対象にして、ユーモラスに動物を描きますが、この『狗子図』も、白い毛と黒い毛、黒い首輪と白い首輪、黒い耳と白い前脚……、と「白と黒」の対比が楽しい作品です。

また、動きのある白い子犬と後ろ姿の黒い子犬の「静と動」の対比も見逃せません。 白い子犬と黒い子犬の二匹を丸い円の中に構図するこの作品は、白と黒の勾玉模様が左右に入り込んだ「陰陽太極図」にも見えます。
白と黒の子犬で「神羅万象、全てのものは陰と陽で成り立っている」ことを表したとしたら、若冲のそのセンスに脱帽です。

賛者は、江戸中期の儒学者で漢詩人の細合半斎(1727−1803)。若冲作品との関わりは、若冲が70代後半に蔬菜や昆虫を11メートルにも及ぶ絹の巻物に描いた『菜虫譜』(佐野市立吉澤記念美術館)の跋文を書いたことで知られます。
細合半斎は、酒造家で文人画家、所蔵家、本草学者でもあった木村蒹葭堂(1736−1802)の婚姻の際の媒酌人もつとめ、若冲と親交の深かった相国寺の大展顕常(1719−1801)や池大雅(1723−1776)とも親しい人物です。

若冲の当時の文化人ネットワークが想われる、貴重な作品です。